クロージング編

【クロージング編:ステップ1 内定後の給与交渉】会社員の今後を占う命のやりとり

転職活動実践編に沿って転職活動を行った結果、晴れて内定をいただけたとする。

しかし、そこで安心してはいけない。

実はその後が非常に重要である。

ここでは、内定後に行うこととして大変重要な給与交渉について解説する。

これを読まずに内定を承諾すると、後で埋められない給与面での不利益を被ることになるかもしれない。

働く上で最も大事な給与を『交渉』しないでどうする

実質賃金の上昇を政治家に求める人たちが多くいるようだが、政治に活路を見出すよりも手っ取り早いのは、自分で自分の給与を上げることだ。

ただし、会社員として働く方々の多くはよくわかっているように、会社に入ってから給与を上げていくのは本当に大変である。

どれだけ成果を出した自負があっても、『これほどの成果を出したのだから、これくらいのお金をください』と日本人が日本の会社で言うことはほとんどないだろう。

その理由は日本人が大人しいからだけではない。

そもそも制度として、職位やポジションそのままで給与(ボーナス含む)を多く渡せるような仕組みはほとんどないし、昇進までに要する年数は諸外国に比べて比較的長いのが大きな理由である。

だとすると、入社時点で、いかに給与を上げておくかがどれだけ重要か理解できると思う。

また、給与はセンシティブだが大変重要な要素であり、内定をいただいた喜びのあまり大した交渉もせずに、企業の提示した金額を疑うことなくサインするなどあってはならない。

これは転職における命をかけたやりとりなのだ。

商品を高く売るのはビジネスの基本である。

転職における自分という商品を高く買ってもらおう。

給与交渉の実際

転職活動実践編のステップ1で述べた通り、転職には優秀な転職エージェントのサポートが必要不可欠である。

【転職活動実践編:ステップ1 転職エージェントの選び方】良い転職には良い伴侶が必要 転職エージェントは言うまでもなく転職活動における水先案内人である。 転職を成功させるためには、転職エージェントをきちんと選ぶこと...

なお、給与交渉についても、企業との連絡窓口である転職エージェントが先方との交渉を行うので、我々が『交渉』すべき対象は転職エージェントとなる。

その際、自分の給与に関する情報をもとに『給与シミュレーション表』を作成することで、転職エージェントへの説明並びに、転職エージェントが先方と交渉しやすい環境を作る。

給与シミュレーション表を作成する目的

給与シミュレーション表は、先方との交渉に臨む転職エージェントに託す虎の巻である。

先に述べた通り、給与交渉は会社員としての今後を占う重要な局面であり、その矢面に立つ転職エージェントに丸腰で行かせるようなことはあってはならない。

転職エージェントと良い関係が築けていればいるほど、自分の想いが転職エージェントに伝わっていると思ってしまうが、給与交渉において必要なのは想いだけでなく『数字の裏付け』である。

給与交渉のゴールは、給与シミュレーション表という数字の裏付けを用いて、『自分を高く売る』ことである。

そのゴールに到達するために、『自分はこれくらいの給与をもらう価値のある人間である』というのを具体的に数字で示すのが給与シミュレーション表を作成する目的だ。

給与シミュレーション表を作成する方法

前提

給与シミュレーション表作成におけるポイントは、直近の年収という実績だけでなく、今年の見込みをあらゆる角度から具体的な数字として算出するということだ。

つまり、まだ確定ではないものの、ある程度確度高く今年の見込みを算出し、それを交渉の材料に利用するということである。

テンプレートには、こちらを用いる。

年収構成要素として『①月給』と『②賞与』があり、年収は『月給(①)×12+賞与(②)』で算出する。

また、①月給については、基本給と時間外勤務手当や住宅手当といった諸手当によって構成されるという建付である。

昨年実績の整理を通じて、年収の構成要素を把握する

まずは昨年実績を整理するべく、最新の源泉徴収票や昨年分の毎月の給与明細をもとにテンプレートを埋めていく。

最新の源泉徴収票を見れば、年収の総額はわかると思うが、重要なのは固定の基本給とそれ以外の諸手当がどれくらいか、賞与はどれくらいか、といった年収を構成するそれぞれの項目の金額である。

会社の給与体系はさまざまで、みなし残業分が毎月の基本給に含まれる場合もあれば、賞与が6ヶ月分もらえるなど、年収の内訳は多種多様である。

自分の年収をどのような項目がどのように構成しているのかを整理することで、内定先の年収提示額が適切かどうかの判断が可能となる。

なお、給与シミュレーション表作成に関わらず、源泉徴収票は手元に用意しておいた方が良い。

会社によっては前職給与の証明として、転職時や入社後といったタイミングで提出が求められる場合があるからだ。

記載例は以下参照。

時間外勤務手当については残業時間が月によってバラバラということも考えられるので、それほど厳密でなくても良い。

年収総額として算出した金額が源泉徴収票の実績と大きく乖離していないことを確認する。

今年の見込みは『確度の高い』予測の場合、交渉材料に活用できる

今年がまだ終わっていない時点で転職する場合、今年の年収の実績を示すことはできない。

なぜなら、今年の源泉徴収票はまだ発行されていないからだ。

しかし、今年は昨年と比べて基本給も上がっており、成果もあげているので賞与Upも期待できるといった好条件が揃っている状況で、それを利用せずに昨年実績を最新の年収であるとしてしまうのはもったいない。

そこで、昨年実績と同様に、今年の見込みを給与シミュレーション表で整理する。

例えば以下の例をご参照いただきたい。

上記の例は、昨年と比べ基本給が給与改訂によって上昇し、それに伴い平均残業時間は変わらなくとも時間当たりの単価Upによる時間外勤務手当の増加が見られ、かつ高評価が見込めるため賞与が規定よりも多く支給される予測が立っている場合を示している。

昨年とは年収が約150万円上昇する予測だ。

これは大変インパクトが大きい。

このように、どのような理由で金額が上昇したかを説明でき、かつ毎月の給与明細というエビデンスがあれば、単なる妄想ではなく『確度の高い』予測となり、十分に交渉材料として活用することが可能なのである。

給与を上げるのは市場価値を高めるということ

先ほどの例の場合、給与シミュレーション表を作成せずに、昨年実績と同額である800万円のオファーを受けてしまったら、今年手にできたであろう約950万の年収に到達するのは何年後になるだろうか。

現職でこれまでやってきた結果として、今年は昨年と比べて多くのお金を手にできる環境が作られたことを思い出して欲しい。

転職先では『転職先で必要な』スキルや人脈をほぼゼロから作ることとなるので、今年のような環境をつくれるのが何年後になるか分からない。

ましてや、あらゆる理由でうまくいかないリスクがあるわけで、永遠にオファー時と同じ年収、最悪の場合そこから下がっていくことさえあり得る。

また、これだけ書いても、自分を高く売ることに躍起になれない会社員に言っておきたいのだが、会社員の市場価値とは収入を指す、それ以外にない。

その前提がある中で、1円でも高く雇ってもらう努力をしないなら、もはや会社員失格である。

自分の市場価値を上げるために、少しでも給与を高くしてもらえないかをとことん交渉するべきである。

高い給与で転職するのは転職エージェントも嬉しいことなので、積極的に巻き込んでしつこくやっていく。